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2004.06.03

横笛の物理学

■音速と周波数
 音波とは物理的には空気の振動が波として伝わることを指します。
音の高さ・低さは空気の振動回数で決まります。振動回数が多ければ音は高く=周波数も高くなり、
振動回数が少なければ音は低く=周波数も低くなります。周波数を式で表すと以下になります。

f: 周波数(Hz)
v : 音速(m/s)
λ 波長の長さ(m)

f = v / λ (物-1)

 音速は一般に以下の式で求めます。

t : 摂氏気温

v = 331.5 + 0.6t (物-2)

※wikipedia音速
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9F%B3%E9%80%9F

 チューニングの基音になる442Hzの音を20℃で出すには、物1-1と物1-2式から

λ = (331.5+0.6x20)/442
 = 0.7771…

 約77.7cmの波長を得ればよいことになります。
 笛では管長が長くなるほど音が低くなり、短くなるほど音が高くなります。
 反対に同じ波長でも温度が1℃違うと1.36Hzずれることになります。
 これが気温によって楽器のチューニングがずれる理由です。

■気柱の振動(開管と閉管)
 それでは求める周波数(=波長)を横笛で得るにはどうすればよいのでしょうか。
 高校物理で習う気柱の振動について理解する必要があります。
 ※筆者は文系で横笛製作のために物理の勉強しました。独学なので違っているところがあればご指摘ください。

 波の一番高い部分(=振動が一番多い部分)を腹(anti-node)
 波の一番低い部分(=振動が一番少ない部分)を節(node) と呼びます。

 両端が開いている管を開管(フルート・横笛等)
 片端のみ開いている管を閉管(サックス・オーボエ等) と呼びます。

 開管と閉管で発生する波の模式図です。

開管開管
kaikan.gif
heikan.gif
※Special Thanks to クラリネット総合研究所より画像引用

 閉管(サックス)と開管(横笛)が同じ長さなら閉管の方が倍長い(=1オクターブ低い)音がでることが分かります。

※音の発生と開管・閉管の謎
http://page.freett.com/nicyan/engineer/kan2.htm
 開管楽器での波長と管長の関係式は以下になります。

l : 管長(m)
m : 1以上の整数

λ = 2l / m (物-3)

※wikipedia管楽器
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AE%A1%E6%A5%BD%E5%99%A8

 一般的に横笛は2オクターブ半の音がでます。
 m=1の場合が低音、m=2の場合が1オクターブ高い音(中音)になります。
 高音(低音の2オクターブ高い音)はm=3ではm=2の倍の高さにならないので、1オクターブ高くなりません。
 高音は指使いが変わる理由です。

 なお閉管楽器であるサックス等が開管楽器と同様の動きをする理由は下記URLの解説が詳しいです。
※管楽器のやさしい物理学
http://www.iris.dti.ne.jp/~post/onpa/

■開口端補正
 上記式 物-1,2,3を組み合わせれば管長 lが求められますがまだ不十分です。
 予想される周波数より低い周波数になってしまいます。
 管の端から振動する空気が外にでるには少し抵抗があるのです。
 抵抗は管を実際の長さよりも長くする効果があります。管長を長くする=周波数が低くなるのです。
 一般的にこの抵抗分を以下の式で管長に変換できます。

le : 開口端補正(m)
r : 管内径(半径,m)

le = 0.61r (物-4)

 これらより周波数fを室温tで得るための管長lは以下の式になります。

rh : 管頭側開口半径
re : 管尻側開口半径

l = m(331.5+0.6t)/2f - 0.61rh - 0.61re (物-5)

※『楽器の物理学』 著N.H.フレッチャー/T.Dロッシング
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4431709398/ref=sr_aps_b_/250-8610595-6423466

 管が太いほど開口端補正は大きくなりますから、同じ長さの管では太ければ低い周波数が、
 細ければ高い周波数が得られます。

 なおlは歌口の管尻側辺と管尻または指孔の歌口側辺の距離です。
 指孔中心が同じ位置なら、指孔が小さい方が音が低く、大きい方が音が高くなります。

■横笛と音響工学
 ところが式 物-5では横笛の位置計算にはまだ不十分なのです。
 実際に横笛を作ってみると内径9mm(直径18mm)の笛で端補正は約40mmもあるのです。
 開口端補正の計算では、5.4mmが両端としても10.8mmにしかなりません。
 しかも管長を求める場合(=筒音・指孔を全て閉じた場合)と指孔位置を求める場合では、
 指孔の端補正の方が管長の1.3〜1.6倍も長いのです。

 これを物理学で解く分野が音響工学です。
 考え方の基礎は音波も波である以上、物理的に交流電流と同じ振る舞いをするはずと考えます。
 歌口では息を吹き込むことでカルマン渦が発生しますが、この渦をコイルにあてはめます。
 歌口から管頭の空間(ふところ)は空気をためる機能を持つので、コンデンサに当てはめます。
 交流電流におけるコイルとコンデンサの抵抗をインピーダンスと呼びますが、横笛の場合
 歌口(コイル)とふところ(コンデンサ)を並列した合成インピーダンスが抵抗と考えて、端補正を大きくしているようです。

※『楽器の物理学』 著N.H.フレッチャー/T.Dロッシング
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4431709398/ref=sr_aps_b_/250-8610595-6423466

※『基礎音響工学』  コロナ社
http://db2.dcube.co.jp/coronasha/

 『楽器の物理学』に波動方程式から展開してこの端補正を求める式が掲載されていました。
 ※筆者は理解できていません。

c : 音速
ρ : 空気密度 ≒ 1.29
le : 管長
Se : 歌口面積
ω : 角周波数 = 2πf
S : 管の断面積
Z0 = ρc / S
M = ρle / Se

deltal.jpg (物-6)

 この式を展開して値をあてはめても測定値と一致しませんでした。
 周波数は管素材の空気抵抗、管形状(節がある、指孔がある)で変わるようです。
 節や閉じられた指孔は空気の流れを阻害して音速を遅くすることで周波数に影響を与えます。
 実際2節以上の笛で節抜きのサイズを大きくする=音速を早くすると、音は高くなります。
 竹という自然素材なので1本ごと条件は違うので一致しないもの当然ですが、違いが10mm以上でるので
 筆者の解釈違いの可能性大です。

■オクターブを正確に
 歌口(コイル)とふところ(コンデンサ)の音響的特徴から問題が生じます。
 コイルとコンデンサは周波数によってインピーダンスが変わる周波数特性があるのです。
 これは同じ指使い(=同じ管長)で1オクターブ違う音を出す横笛では、低音と中音が正確に1オクターブ違い
 にならなくなります。高い周波数でよりインピーダンスが大きくなる周波数特性なら、オクターブの近くなります。
 低音と中音の比率は2.0が理想ですが、1.8〜1.9と2.0より小さくなるのです。
 反対に高い周波数でインピーダンスがより小さくなる周波数特性なら、オクターブは遠くなります。
 低音と中音の比率が2.0以上になるのです。いずれにしても低音と中音のどちらかの調律がずれてしまいます。

 ちなみに下図の通り、一般的にコイルは周波数が高くなるとインピーダンスが大きくなり、コンデンサは
 周波数が大きくなるとインピーダンスが小さくなる傾向があります。

コイルの周波数特性コンデンサの周波数特性
z-coil.gifz-condenser.gif

 また下式はコイル(歌口)とコンデンサ(ふところ)のインピーダンスを求める式ですが、コイルは巻き数(歌口面積)に
 比例してインピーダンスが大きくなり、コンデンサは体積に逆比例することを示しています。

Ze : コイル(歌口)インピーダンス
L : コイルのインダクタンス(歌口面積と音響的長さで決定?)
le : 音響的長さ
Se : 歌口面積

Ze = jωL = jωρle / Se (物-7)

Zc : コンデンサ(ふところ)インピーダンス
C : コンデンサの容量(ふところの体積等で決定?)
V : ふところ体積

Zc = 1 /jωC = jρc2 / ωV (物-8)

 結局周波数特性一定になるようなコイル(歌口の大きさ)とコンデンサ(ふところの大きさ=歌口の管頭からの位置)を
 求められれば理論上は低音・中音比率2.0の理想の値が得られることになります。
 歌口を管頭寄りにすればより大きな歌口が必要になり、管尻側にすればより小さな歌口でよいことになります。
 篠笛もフルートもふところの大きさはコルク等詰め物をして大きさを調整しているようです。
 篠笛では歌口端からコルクまで1mm程度、フルートでは18mmです。

 歌口の大きさと歌口の管頭の位置を合わせてみましたが、筒音は低中音比2.0に合わせると指孔を開く
 ごとに低中音比が下がり、全て指孔を開放すると1.85ぐらいまで下がったりして一定しません。
 筆者の経験では全ての指孔で低中音比約1.95ぐらいで安定させることは成功したのが最上です。

 篠笛では竹の性質上管尻に向かって徐々に細くなっています。フルートの場合は頭部管で17→19mmと太さが
 変わっています。太さが徐々に変わっている管をテーパ管と言いますが、歌口の大きさと位置に加えてテーパの
 度合いが重要な要素なようです。
 上で引用した『楽器の物理学』にはテーパの度合いを定式化する解説もあるのでじっくり取り組んでみたいと
 思います。

 筆者にコイルとコンデンサの数学を教えてやろうという思う奇特な方がいらしたら是非ご連絡いただければ幸いです。


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